山口県山口市にあるアートセンター、山口情報芸術センター[YCAM](以下、YCAM)のウェブサイト制作で、コンセプト策定からディレクション、デザイン、仕様設計など幅広い領域を担当した。YCAMはメディア・テクノロジーを用いた表現を軸に活動する複合文化施設。研究開発プロジェクトを起点として、展覧会や公演にワークショップ、映画上映や地域教育機関でのアウトリーチなど、日々多彩な事業を展開している。
YCAMの活動には山口の市民をはじめ、国内外の様々な専門家が関わっている。そうした多くのステークホルダーへの情報発信と、10周年記念祭の前後より活発になっていたYCAM自身の活動を可視化するためのウェブサイトの目指して、情報拡充に重きを置いたリニューアルを行なった。
恊働によるコンセプト策定
担当者であるアーキビストと共に事業計画や様々なドキュメント、館内でのワークショップ・インタビューを元に、制作の方向性をまとめた。利用者が継続してYCAMの事業を理解できる導線について考え、グランドコンセプトを共同で策定し、制作のための骨子とした。
その他にも、機能の設計案、サイトマップの素案を含めることで、コンセプトと制作につながりをつくり、ワイヤーフレームやCMSの設計のための土台とした。
研究開発プロジェクトの可視化
多彩な事業のつながりが見えるようにプロジェクトページを新設した。研究開発プロジェクトから開催イベント、協業した専門家たちのプロフィールや開発した成果物など、コンセプトから各年ごとの活動をウェブサイト上で追えるようにした。
YCAMの事業を説明するコンテンツの拡充
市民や専門家とともにつくり、ともに学ぶことを活動理念としているYCAMは、研究開発や人材育成など、幅広い取り組みとコラボレーションが起こるオープンな場である。それらについてまとめた「YCAMについて」や、それを体現している「YCAMインターラボ」、スタッフのプロフィール情報を新たに拡充し、内部の活動を可視化した。
イベントカレンダーの刷新
開催されるイベントの種類と期間に合わせて、複数のカレンダー型UIを制作。リニューアル前に設置されていた多機能なカレンダーを用途別に3つのページに分割した。これまで・今後のイベントを俯瞰できる「イベントカレンダー」、1日ごとにイベント・映画を確認できる「きょうのYCAM」、映画の予定を確認できる「上映カレンダー」として目的別に使えるようにした。トップページにもきょうのYCAMと同等のカレンダーを設置している。
多言語対応とWebフォントの導入
日英中韓、4つの言語への対応と、各言語に対応したWebフォントを導入した。多言語のテキストは管理用プラグインを社内で制作し、テンプレート上で扱いやすくしている。また、制作期間中に公開されたWebフォント版の源ノ角ゴシック(Source Han Sans CJK)をそれぞれの言語に設定した。複数の会社により共同で制作されたCJK書体とOpen Sansを組み合わせることで、YCAMのオープンな姿勢を表現できると考えた。
運用・事業に合わせた改修
2015年の公開から2020年までの5年間、改修を担当した。主に委嘱作品をまとめた特設サイト「YCAM Re-Marks」のコンテンツを統合したアーカイブページの刷新やプロジェクトページ、学校・教育機関向けページ、トップページなどの大きな改修で、その時々のYCAMの話を聞きながら、実装前のヒアリングとデザインを進めた。
個人的なこと
このページの原稿は、当時書いたリリースや手元の書きかけメモと2020年までの流れをもとに、ポートフォリオの制作に合わせて2022年1月に執筆している。制作体制やインタビューの記事が公開された際に、いつか書かなければ…と思い続けかなりの年月が過ぎてしまった(ので、美化しないように気をつけている…)。
制作時の所属会社は様々な博物館、美術館、劇場といった複合文化施設や公共性の高いWebサイトを手掛けていた。自分がYCAMにアサインされたのは3年目のことで、終わる頃には5年目に差し掛かっていたが、それまでのプロジェクトでやってきたことが自分なりに一本につながり、解像度が上がったように感じた。
また、YCAMのアーキビストである渡邊氏とはプロジェクト全体を通して、YCAMの様々なトピックについて話をしたが、その最中で「アーカイブ性」について考えることが増えていった。10年使えるウェブサイトにしたいと言われていたのもあるかもしれない。いくつかの意味があると思うが、ここで意図しているのはざっくり書くと、事業構造(との一致・再現)と、耐用期間である。CMSの設計アプローチ的に、通常のコーポレート型のウェブサイトではなくアーカイブを構築するような感覚で、過去・現在・未来の様々な事象やそれらの関連関係、理念や事業のデータを網羅して残す(しやすくする)こと、その結果を使って「もう一つの館」をブラウザ上に再現・可視化することを大切にしていくようになった。ページビューや動員数といった何らかの量的指標と少し離れて、施設の営みや概念について集中できるのは非常にありがたいと感じた。このあたりは機会があれば、別の記事として書いてみたい。
最後に、当時の制作メンバーである渡邊氏、ピーター氏、門松氏をはじめ、業務を支えてくれた同僚や関係各位に心から感謝します。